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マイ・ワーク

 こういう仕事を2年半もしているのだから、まあそういうこともあるだろうとは思ってはいたものの、やはり見知っているどころか直に会話をして、時にはいろいろ便宜を図ってもらっていた人を、免職であれ、重停職(辞表提出とセット)であれ、とにかく除隊の方向に持っていかざるをえない手続きをするのは、楽しいものではない。現職務に就いて2年と8ヶ月、直接間接に首を切ってきた人間は五指に余る程度だが、麻薬や連続淫行で一般警察に捕まる若いのはともかくとして、妻子も家もあるそれなりの人が部内規律を乱したとして軍歴を断絶されるとなると想像力が働くのを抑えるのは困難だ。今後の生活費とか家のローンとか子供の教育費とかどうするんだろう・・・・そもそも家庭生活を続行して行けるのだろうか。酒に溺れたりしないだろうか。妻は夫のしでかしたことを許すのだろうか。
 処分量(<いわゆる『刑』)の検討にそんな個人事情を斟酌してはいけない。そして手続きに齟齬があってはならないため、後々に万一不服申立てや最悪、行政訴訟になった場合に十分耐えられるような水も漏らさぬ書類を市ヶ谷の指導のもと編綴しなければならない。曰く、この人はこんなとんでもない規律違反をしました、証言者はこれだけいます、曰く、この人はこんなに軍人として不適格です、曰く、この人の行為で部隊はこんなに動揺しています、曰く、この行為の動機は非常に身勝手なもので・・・・
 帰宅する自転車をこぎながら何回も泣いた。自宅に帰っても独りなのだからいくらでも涙を流せるのに、なぜだか自転車の上が一番頭が回る場所で、次から次にやるせない思いが吹き出してペダルを踏みながら溢れる涙が止まらない。当然そんな夜にはスーパーに寄れない。
 当人の指揮官と、刑事事件として捜査する憲兵隊と、情に厚い中将と、それを察してあえて冷徹な処分を指導する参謀長と、鉄のごとき論理構成を求める市ヶ谷の思惑の狭間で結論が固まるまで、事件発生から2ヶ月を要した。
 マスコミに公表する資料の調整を市ヶ谷としながら書類を編綴し、冊子のように分厚くなった書類を拙者が差出し、一番上の紙に中将が署名する。処分が執行された翌日、彼は部隊を去った。事情を知ってる人は微妙な面持ちで、あるいは事情を知らない人は怪訝な表情で、建物の裏口で彼を見送った。事情はどうあれ彼の普段の勤務は実直であったから、その時裏手駐車場に佇んでいた隊員は30人を越えた。筆が鈍っては困るので事件発生後彼の顔を見るのはそれが初めてだった。
 「絶対マスコミが食いつきそうなネタだよねえ」と事件発生直後に拙者の新しい上官になった人は言い、拙者もそう思ったのだが、事業仕分け等のニュースが山積みであったせいか、直後の報道はまったくなかった。
 温泉から帰った翌日、不正規なルートでマスコミ報道がなされたことを知らされた。公表から3日後の地方紙の、さらにローカルな欄の隅に、ささやかに載っていた。まるで穴埋めだった。

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